食道がんでは食道以外にも咽頭や喉頭にがんが発生しやすく「重複(ちょうふく)がん」と言います.飲酒や喫煙が共通のリスクとなるためです.また少しだけ残った食道に再度食道がんができることがあり「多発がん」と称します.こちらも同様のリスク状態になっているためです.
重複がん
食道がんでは食道以外にも複数の場所にがんが発生しやすく「重複がん」と言います.食道がんの主な要因である飲酒や喫煙が他の部位でも共通のリスクとなるためです.入手できる統計では1050例の食道がんで284例の重複がんを認め,そのうち113例40%が咽頭・喉頭・舌などの耳鼻科,口腔外科領域のがんでした.次いで多いのが胃がん30例,肺がんが6例でした(日消外会誌 2004).食道と同じように発がん因子にさらされている部位に多く、これらは同時に発生することもあれば、異なる時期に発生することもあります。そのため手術前でも手術後の定期検査でもチェックを受ける必要があります.
多発がん
一方,同じ部位にできた同じようながんを多発がんと言います.内視鏡手術では大部分の食道が残ります.また,根治手術でも手術の項で記載したように食道は亜全摘で,食道の一部が残りますので,手術の後も食道がんが発生しうるのです.まだら食道と言って異形上皮の多発している人では多発する可能性が高く,注意が必要です.禁酒によって手術後の食道がんの再発が減らせると京都大学から(発表されました(Esophagus2023,京都大学最新の研究).その論文の要旨は
1.前がん病変とされる異型上皮の発生には、飲酒、喫煙、緑黄色野菜を食べない、やせが関連する。
2.食道内に多発性の異型上皮があると食道内多発がん、頭頸部がんの発生が高くなる。
3.禁酒をすると、異時性の食道がん発生を約半分に減少させることができる。
とのことです. 筆者は重複がん,多発がんともに既に経験してしまいました.禁酒していないのが良くないことは重々分かっています.すぐに禁煙はしましたが,禁酒はしていません.
下咽頭がん(梨状窩のがん),ELPS
術後1年目の内視鏡検査は健診の枠で勤務先の病院で受けました.梨状窩にごく小さな毛細血管の拡張した1㎝程度の領域が2カ所にみつかり,早期がんと診断されました.梨状窩は普通の状態ではつぶれておりで観察は瞬間勝負,普通に食道を観察するようなわけにはゆかないのです.同僚の消化器内科の先生は自分なら見逃していたかもしれぬと,見つけてくれた先生の観察力を讃えていました.
この部位は手術に際しても普通に開口しただけでは観察や手術操作ができないので,従来は頸部を切開して行っていました.最近はELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery:内視鏡的喉頭・咽頭手術)が開発され,特殊な彎曲型咽頭鏡で咽頭・喉頭を展開し,内視鏡で治療します.全身麻酔下の治療で,対象となるのは早期のがんです.首に傷ができずに治療ができるので大きな救いです.
全身麻酔下ではありますが体への負担は非常に少ないハズの治療ですが,この治療の後で漠然とした体調不良,軽い倦怠,食思不振を来し再度体重が減り始め,53.5㎏を超えるところまで回復していたのが52㎏を切ってしまいました.何か理由をつけるとしたら全身麻酔だから体への負担がありますから,と説明するしかありません.主治医も同じ意見でした.
手術中の写真: 2カ所の浅いがんを切除したあと(粘膜が剥けて濃い茶色.銀色のチューブは気管チューブでその両側の凹みが梨状窩
*ELPS: Endoscopic Laryngo-Pharingeal Surgery 内視鏡的喉頭咽頭手術:下咽頭は食事を摂らない自然の状態ではつぶれた状態になっており視野が不良.彎曲型の特殊な喉頭鏡を装着し視野を確保しておこなう内視鏡手術.
食道の多発がん
術後2年経過の内視鏡で吻合部近傍に小さな異常血管の領域が2カ所見つかりました.生検(顕微鏡検査)では異形上皮で様子を見るのも選択肢と言われましたが,内視鏡所見からは強く表在がんが疑われます.主治医,内視鏡医,本人すべてすぐ切除した方がよいとの意見,内視鏡切除となりました.
内視鏡像(NBI:narrow band imaging:青-緑の光を当てて観察) 拡張した異常血管が認められる.
数ミリ程度で外来手術で済みそうなものですが,まだコロナ対応もあるし,入院ということになっているので・・・などの説明.付き合いも大事だしと入院,翌日ドルミカムの鎮静下で一カ所はESD*,もう一カ所はEMR*で切除してもらいました.ごく小範囲の切除で済み翌日退院しました.現在標準的な手術はクリニカルパスと言って,入院1日目の検査は何で,手術後の治療は何日目に何,退院は何日目と決められているのが普通になってきている.それに従うと5日くらいは入院していないといけないのですが,正直無駄な時間だと思います.一方自分の体に自信がなく,心配性の患者さんはゆっくり安心できるまで入院していたいと思います.フレキシブルな運用を願いたいものです.
病理検査(顕微鏡検査)では一部扁平上皮がんで大きさは2-3mmで深さはEP~LPMと浅く治療は完了しました.治療後は下咽頭がんの時と異なり体調変化はありませんでした.
* ESD: 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection)①
EMR: 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:②
オリンパスのサイト①,② がわかりやすい
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