食・栄養・サプリ

食道がんの術後はとにかく食事が食べられません.おなかがすぐ満タンになり苦しく,腹痛,嘔気.下痢,食欲不振,逆流なんでもありです.普通の食事以外に,糖質のゼリー,アミノ酸,MCTオイルなど一日600kCalくらいは摂取しています.

退院直後

退院してきましたがとにかく食べられません.食欲がない.少し食べるとお腹が張るし,嚥下がしにくく,腸の動きも変なことが多く途方に暮れました.退院直後は点滴で少しは補えましたが,3度の食事のみでは明らかにカロリーも栄養も不足です.間食にお茶漬けやカップヌードル,ナッツ系のお菓子,雑炊などいろいろ試しましたが,お腹にも負担で味にもすぐ辟易し続けられません.管理栄養士は,総蛋白5.1じゃないですか,もっと食べないとダメですよと言い放ちます.食べられたら苦労しないわけで,どうやって何を食べてみるかを提案してくれないと話になりません.妻と唖然,それ以上聞く気もおきませんでした.

後輩の消化器外科医で健康関連のユーチューバー,書籍も売れている石黒先生に相談しました.果物を絞ったジュースとMCT(中鎖脂肪酸:Medium Chain Triglyceride)でもどうですかとの返答.早速ジュースを作るマシンとMCTを購入しました.果物は大好物なので生ジュースならこの上ないご馳走,MCTも恐る恐るでしたが,嫌な香りや味はなく,1回10mLくらいならお腹に問題ないようです.MCTは普通の脂肪,すなわち肉や魚の油脂,サラダやドレッシングの油に比べて消化吸収が楽で体の負担になりにくいのです.後で少し詳しく記載します

乳糖不耐症?

牛乳は大好きでお茶のように食事の後など一日2-3回は飲んでいたので,何かを足して術後の栄養補給の要になるかと思っていました.しかし術後はどうも乳糖不耐症のような症状が出現,お腹のおさまりが変です.日本人の7-8割は乳糖分解酵素は無く,たくさん牛乳を飲めても慣れているだけで酵素が無い人が多いとのこと.自分もそんな一人だったのか.それでも大好きな牛乳で栄養を補いたいので,乳糖分解酵素を処方してもらったがやはりスッキリしません.牛乳特に瓶で配達してもらっている飛騨牛乳はとびきり美味しく大好物,たくさんは飲まれなくなりましたが少しずつは飲みますが.少しは頼りにできると思っていた牛乳とカステラやお饅頭といった組み合わせには頼れないことになりましたた.

飛騨牛乳 美味

追記ですが,その後の情報で牛乳の主なタンパク成分のカゼインに異なったタイプがあり,タイプがA1だとアレルギーを来しお腹がゴロゴロするらしいとの話を聞きました.カゼインのタイプは父牛と母牛の2種類の遺伝子の組み合わせで決定され,A2A2の組み合わせだと体に悪い影響がでにくく,A2ミルクの表示で売られているようですが,まだ試していません.

余談:飛騨の郷は美味しすぎ.乳糖不耐症疑い,から立ち直れたのもこの美味しさのおかげ.アパート滞在旅行先のスーパーで美味しい牛乳が見つからないのはつらい

栄養補助剤

体に必要な栄養素をバランス良くまとめて摂れる液体の栄養剤があります.術前から医療用の栄養剤や市販の栄養パックなどいろいろ試してみました.炎症性腸疾患の手術もしていたので,まずまず身近な医療用のもの(保険収載で処方できるもの)は3種類試しました.以前サンプルで味見をした時には,結構いけそうだと思った薬剤でも,いざ自分が毎日それなりの量を飲むとなると,味が濃厚すぎて無理な感じです.

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一般に販売されているメイバランス(明治)は濃度感がなんとか堪えられ,味やフレーバーも多種類が用意されています.栄養補助剤のたんぱく質は牛乳由来のものを含む製品が多いのですが,乳糖の入っていないものも用意されているのには感心しました.クリミール(森永)やアイソカル(ネスレ)とともに食道手術後の栄養補給にはにはもっとも勧められる製品と思います.タンパク,糖質,脂質がバランスよく,ビタミンやミネラルも入っています.メイバランスで行こうとストックも整え頑張りましたが,じきに味と香りが鼻について続けられなくなりました.

in ゼリーに救われた

同じ職場のアラカンの補助看護師さんが,栄養摂取に苦労しているのを見かねてINゼリーを勧めてくれました.初めて飲んでみて,味がくどくなく苦にならないと感じ,救われた気がしました.ゼリーというのも気に入りました.ゼリー状の食餌やバナナなどはもっとも飲み込みやすいとされ,水分はむしろ誤嚥しやすいのです.消化薬やマルチビタミンなどの大きなカプセルや錠剤が流し込みやすいのも利点です.しかもあちこちのコンビニでも売っているようで旅先でも困らなさそうです.

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マスカット味で180mL180Kcalです.血糖の急上昇を防ぐためもあるかと思われますが,デキストリンが使われています.デキストリンはデンプンを分解した分子量の小さい消化されやすい糖です.しかし悪の権化のように言われる果糖ブドウ糖液糖もたっぷり入っていそうですので,血糖が高い人,糖尿病の家族歴がある人は注意が必要です.またダンピングを来す人は症状が悪化する可能性があるので,やはり注意が必要です.デキストリンと果糖ブドウ糖の比率,どの程度の分子量か?,代謝のスピードは?,などをメーカーに問い合わせましたが,答えてくれませんでした.多種類のINゼリーがありますが,著者の摂取している「エネルギー10秒チャージ」の内容は糖質とビタミンのみで,タンパクや脂肪は別に補う必要があります.

プロテイン・アミノ酸

食道の術後は筋肉の痩せが酷いと主治医から聞きました.最近,中高年は蛋白質を多めにとるべきとの記載はあちこちで見かけるようになりましたが,術後は普通の人以上に蛋白質摂取が重要と思われます.筋トレファン御用達のいわゆる”プロテイン“は割と安価ですが,消化酵素による分解が必要です.胃腸が弱い身にはしんどそうで,試していません.食道がんの術後,糖質(炭水化物)の消化吸収は障害されないが,たんぱく質の吸収力が低下しているとの古い論文があります(日本消化器外科学会雑誌 1974).

タンパク質は、胃で胃酸とペプシンによって変性、分解されます。次に膵液中のトリプシンやキモトリプシンによってさらに分子量の小さなペプチドにまで分解されます。最後に、小腸の粘膜上皮に存在するペプチダーゼによってアミノ酸に分解され、小腸から吸収されます.

アミノ酸製剤は直接吸収され体の負担は少ないハズですが,濃度が濃いと浸透圧が原因で下痢をします.また値段が高いのが欠点です.アミノ酸は一粒0.5gくらいののカプセルが多種市販されていますが割とサイズが大きく,手術で嚥下機能が低下している体にはたくさん服用するのが大変です.アミノタブレット(森永)は 1錠あたりアミノ酸が0.5gの円盤状の錠剤で自分には服用しやすい形です.

運動の前後には筋肉増加を促すとされるBCAA (Branched Chain Amino Acids: バリン、ロイシン、イソロイシン)も加えて,一日20g以上を目指し,ゼリーで流し込んでいます.アミノ・バイタルも併用しています. 100mL のゼリーにアミノ酸5g程度ならお腹に影響はありませんが,どこまで大丈夫かは試していません.

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脂質は,皮下,内臓周囲や内臓内など全身あらゆる場所の脂肪組織に蓄えられます.糖質はグリコーゲンとして肝臓に100g,筋肉に200-300g,蓄えられています(データ出所は不詳).たんぱく質は筋肉,臓器,皮膚,髪,爪など体の形を作る主な成分で,免疫,酵素,ホルモンなど体を機能させる重要な物質の成分です.それらが形成されるための原料は,食事中のたんぱく質が消化吸収されてできたアミノ酸です.

しかしアミノ酸は血中を流れているだけで,貯蔵できません.アミノ酸が使用されて不足すると,筋肉などを分解してできたアミノ酸が使われます.そのため,たんぱく質は毎食摂取して血中のアミノ酸を枯渇させないことが大切です.食道がんの根治手術は広範囲に及びその修復にたくさんアミノ酸が必要ですが,食事量が減り,消化吸収力が低下しているため,筋肉のやせがおきます.

中鎖脂肪酸(MCT)

脂質は1g9Kcalで糖質のカロリー1g4Kcalの倍以上です.しかも例えば100gの柔らかく炊いた米飯は水分を除くと糖質は約40gしかなく,カロリーは×4で約160Kcalとなります.しかし脂質20gなら×9で180Kcalとなり少量でたくさんのカロリーを摂取できます.しかし普通の脂質,肉の脂身やサラダオイルなどはいわゆる中性脂肪で消化吸収の過程が複雑で体に負担がかかります.脂っこい食事をすると胃がもたれるというヤツです.先述の論文に食道術後に消化吸収が最も低下するのが脂肪であると検証されています.

それに対して中鎖脂肪酸(MCT:Medium Chain Triglyceride)は複雑な消化過程を経ずに吸収されて,直接血中に入るので胃腸への負担は少ないとされています.MCTはサラサラで香りや味は極めて薄く直接飲め,コーヒーや味噌汁に入れても大丈夫です.注意点はカップ麺など発泡ポリスチレン(発泡スチロール)の容器では,振りかけると容器が溶けて危険なことが国民生活センターから報告されています(2023年4月,エゴマ油やアマニ油でも同様の危険性がある).他にはMCTは加熱調理は禁止であること,腹痛や下痢をきたすことがあるので少量から始めた方が良いことが挙げられます.約10gを一日2-3回摂取しています.MCTは最近ダイエット効果があるとされ人気のようですが,やはり熱量は8Kcal/g以上あり少し怪しく思っています.

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MCTについての科学的な記載を探し,食品会社のネッスルが子供の摂取に関する安全性についてFDAから安全基準合格証(GRAS)を取得するために提出した105ページのレポート(2021)が見つかりました.消化吸収に関して,MCTはLCTより分子量が小さく消化酵素との接触が良好で効率が良く,更に膵酵素のリパーゼや胆汁が無くても吸収される.またLCTのようにリンパ系に入るのではなく,直接門脈に入る,と記載されています. またMCTはLCTよりも迅速かつ完全に利用・分配され、体内に蓄積されない,との結論も記載されています.これらの研究は1960-80年代のものが殆どで,古い論文のためネット検索で見つかりにくい理由が分かりました.

MCTオイルは4-5種類試し,どれも香りがやわらかく味に癖が無くて10mLでも苦労なく飲み込めました.しかし気に入ってリピートしていたのに4回目くらいで酸化していたものもありました.現在主に利用しているのはチブギスのMCTで480mLの製品は酸化防止専用ボトルに入っていて,口をつけずに直接口腔内に注入可能です.液ダレもほとんどありません.

マルチビタミン・ミネラル

マルチビタミンミネラルとは、複数のビタミンとミネラルを配合したサプリメントです.マルチビタミンミネラルの定義ははっきりしませんが、ビタミンA、B群、C、D、E、葉酸,カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウムなどが含まれるのが普通です.一般に栄養バランスが偏っている人、健康維持やアンチエイジングを目的とした人などに勧められます.51歳以上の米国国民の40%以上がマルチビタミンミネラルを使用しているのは驚きです(厚生労働省 海外の情報

マルチビタミンミネラルの効能について科学的データではなかなか良い結果は出ていませんが,少しは良いのもあります.26の選りすぐった論文を分析し心血管系疾患とがんの一次予防への効果について検討した論文では10年以上内服した男性の発がんを僅かに抑制するという結果でした.心血管疾患の予防効果は認められませんでしたが,栄養状態の悪い地域では有用な可能性があると記載されています.(Ann Intern Med 2013). また45歳以上の米国女性で,お酒を飲む女性の乳がんやレセプター陰性の乳がんのリスクを減らすことが示唆されました(Am J Epidemiol 2008).

個々のビタミンに関しては特定の集団では治療的な意味を含め,意義があると考えられます.閉経女性の骨密度改善にカルシウムやビタミンD,高齢者のビタミン12不足傾向,妊娠女性の葉酸などが挙げられます(eJIM マルチビタミンミネラル).

栄養の基本は食事から摂るのが原則ですが,通常の食事で摂取できない場合や,不足しやすい状況ではサプリに頼ればよいかと思います.食道がん手術後は食事量が減少し,消化吸収力が低下しているのでビタミン全般が不足してそうです.特に脂質の吸収が低下しているので,ビタミンA,D,Eなど脂溶性ビタミンが不足している可能性が高いと考えられます(私見).保険として以上にマルチビタミンミネラルの内服を推奨できると思います.

筆者はもともと食事量がとても少なく,手術のずっと前からお守りになると思い服用していました.術後はなおさらビタミンやミネラルが不足している可能性が高いので,必ず服用しています.ネイチャーメイドのスーパー・マルチビタミンミネラルは一日一錠で,少し大きな錠剤ですが,ゼリーで流し込めば容易に内服できます.ビタミンやミネラルの過剰摂取は副作用が発生することもありますが,個々の成分が一日の推奨摂取量の3分の1から倍量程度の配合で,補助目的の量としては適切でで危険性は少ないと推察します.

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その後調べてみると食道がん術後に不足しやすい成分は鉄、ビタミンB12、ビタミンD,葉酸などで,83人中65人でどれかが不足していたとの結果でした(Nutrient 2020).またビタミンA,E,フェリチンも不足していると報告されています(Ann Surg 2015).そして食道がん術後6ヵ月から24ヵ月後に微量栄養素欠乏症を発症するリスクがあるので,ルーチンに検査を行い,必要に応じて補充すべきである.と結論しています(Nutrient 2020).

消化酵素

消化酵素薬は食品扱いのものもありサプリといってもよいと思います.食道がん術後には消化機能が著しく低下していますが,研究は多くありません.古い論文,イヌの食道がん手術モデル(食道切除はせず迷走神経切断や腸瘻などで実験)での消化吸収の研究では,脂質と蛋白質の吸収が明らかに著明に低下していると報告されています(日本消化器外科学会雑誌 1974).そして迷走神経の切断や食物による分泌刺激の低下に起因していると述べています.膵機能そのものは低下していないが刺激がないので消化吸収力が低下している,との結論です.

最近の食道がん術後の膵外分泌能のレビューで評価に値するとして選ばれた論文は4編のみで症例数も7例から63例ととても少ないのです(Dis Esophagus 2021).最も症例数の多い研究の便中エラスターゼ(膵外分泌機能検査)による評価では,63例中49例で軽度以上の膵酵素の分泌不全が起こっており,最も機能低下していた10例では消化酵素の投与により9人で症状が改善し,7人で体重が増加しています.分泌機能低下が軽度なグループでは消化酵素が有効であったのは42%でした.脂肪性下痢を訴える患者では、消化酵素により87%が症状の改善を認めました.そして食道がん術後の消化器症状には膵外分泌機能の低下が関与している可能性が高いので更に消化薬についての質の高い研究が必要と結論しています(Dis Esophagus 2013).結局まだ科学的な知見は不十分ということです.

最近の食道がん術後の膵外分泌能のレビューで評価に値するとして選ばれた論文は4編のみで症例数も7例から63例ととても少ないのです(Dis Esophagus 2021).最も症例数の多い研究の便中エラスターゼ(膵外分泌機能検査)による評価では,63例中49例で軽度以上の膵酵素の分泌不全が起こっており,最も機能低下していた10例では消化酵素の投与により9人で症状が改善し,7人で体重が増加しています.分泌機能低下が軽度なグループでは消化酵素が有効であったのは42%でした.脂肪性下痢を訴える患者では、消化酵素により87%が症状の改善を認めました.そして食道がん術後の消化器症状には膵外分泌機能の低下が関与している可能性が高いので更に消化薬についての質の高い研究が必要と結論しています(Dis Esophagus 2013).結局まだ科学的な知見は不十分ということです.

消化機能の項にも記載しましたが,手術を受けていない人でも消化機能と消化器症状とは理屈で説明できなくないことが多く,すっきり理解するのは難しそうです.筆者は消化酵素を服用していますが,効いている実感はありません.脂肪便は2年以上経過しても続いています.そして内服し忘れてもさほど調子が悪くなる感じもないのです.それでも良いハズだと信じて,すがる思いで内服しています.消化薬には多種類の酵素が含まれています.単位が複雑でかつ必要量や有効な分量ははっきりしていなくて,調べかけましたがすぐに理解を断念しました.

サプリ服用の注意点

サプリに関する注意点は消費者庁のサイトにまとめられています.安易に健康食品で栄養の偏りや生活の乱れを解決しようとせず、食事、運動、休養の質を高める,というのが基本です.しかし実際術後では食べられない,運動できないという事情があります.個々の注意点を箇条書きします.

  1. 危険なサプリに注意.
    C 国製サプリの肝障害での死亡例が報じられました.儲かるからと全く異業種からサプリを製造し販売している業者がいます.高いほど売れると某社長から直接話を聞いたことがあります.サプリの出どころはしっかり確認することが必要です.
  2. 業者の宣伝文句や体験談は売るために書かれたものなので注意が必要です.
    サプリの効果は栄養研の「健康食品の安全性・有効性情報」で多種類のサプリについてのエビデンス(研究論文の引用・紹介)に基づいた記載があり,検索機能も利用できました.しかし執筆時には主なサプリの概論のみで細かな記載は利用できません.栄養研は国立ですが,個人で細かく症状に応じたサプリのエビデンスを記載しているサイトがあります(健康エビデンス・ナビ).文献も細かく記載されていて頼りになりそうです.
  3. 3.日本のサプリはいろいろな成分を加えて付加価値を上げているように見せ,値段が高い印象です.海外のサプリは焦点が定まった品が多く,購入可能な種類も多く,むしろ安価な印象です.

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